表彰等
2017年度基礎研究賞
2017年度基礎研究賞の授与について
丸山 宏日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げられた研究者に対して基礎研究賞を授与し,その功績を称える制度を 2008年度に設けました.基礎研究賞は毎年2件程度の業績を選定し,主要な貢献のあった研究者に賞状および副賞を授与するものです.第10回にあたる2017年度は2018年3月8日に開催された基礎研究賞選定委員会の審議結果を受け,同年3月16日の役員会において,2件の研究に基礎研究賞を授与することを決定いたしました.
選定委員会の構成は以下の通りです.
丸山宏(理事長),千葉滋(編集委員長),
大沢英一,筧捷彦,河野健二,中島秀之,二木厚吉
石田亨氏(京都大学)
授賞業績: 自律エージェントとマルチエージェントシステムに関する研究
授賞理由
石田亨氏は,自律エージェントとマルチエージェントシステムの(分散人工知能と呼ばれた)黎明期の基礎研究に貢献した.分散プロダクションシステム[1]を皮切りに,欧米の研究者が手掛けていなかった分散探索の研究チームを主宰し,実時間探索[2],分散制約充足[3],分散資源割り当てなどの研究を進めた.石田氏が共著で執筆した「分散人工知能」(コロナ社)[7] はマルチエージェントシステムの基礎概念や要素技術を体系的に紹介する初期の教科書として知られている.応用面では,エージェントの記述言語の研究に注力し,拡張状態遷移機械に基づくAgenTalk[4] とQ[5] を開発している.Qはデジタルシティ京都[6] に応用され,3 次元仮想空間での多数のエージェントの動作記述とシミュレーションに用いられた.また,マルチエージェントシステムの主要国際会議(International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems) や,アジアの国際会議PRIMA の創設に尽力し,共に第一回の大会委員長を務め,情報科学分野の研究コミュニティの発展にも貢献した.よって,日本ソフトウェア科学会は,石田亨氏に基礎研究賞を授与することとした.出典
[1] Toru Ishida, Les Gasser, and Makoto Yokoo. "Organization self-design of distributed production systems." IEEE Transactions on Knowledge and Data Engineering 4.2 (1992):123-134.
[2] Toru Ishida and Richard E. Korf. "Moving-target search: A real-time search for changing goals." IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence 17.6 (1995): 609-619.
[3] Makoto Yokoo, Edmund H. Durfee, Toru Ishida, and Kazuhiro Kuwabara. "The distributed constraint satisfaction problem: Formalization and algorithms." IEEE Transactions on knowledge and data engineering 10.5 (1998): 673-685.
[4] Kazuhiro Kuwabara, Toru Ishida, and Nobuyasu Osato. "AgenTalk: Describing multiagent coordination protocols with inheritance." Tools with Articial Intelligence, 1995.
[5] Toru Ishida. "Q: A scenario description language for interactive agents." Computer 35.11 (2002): 42-47.
[6] Toru Ishida. "Digital City Kyoto." Communications of the ACM 45.7 (2002): 76-81.
[7] 石田亨, 桑原和宏, 片桐恭弘. 分散人工知能. コロナ社, 1996
井上克郎氏(大阪大学)
授賞業績: プログラム解析に基づくソフトウェア開発支援に関する研究
授賞理由
井上克郎氏は,ソフトウェア工学分野において,プログラム解析技術,及び,そのソフトウェア開発支援への適用に関して,顕著な研究業績を挙げてきた.特に,ソフトウェア部品検索,コードクローン解析,プログラムスライシングに関する新しい提案をIEEE Transactions on Software Engineering (TSE) 等のトップジャーナルやInternational Conference on Software Engineering (ICSE)等のトップカンファレンスに数多く発表しており,今日までに数多く引用されるに至っている([1][2][3][4]など).また,同氏の提案したソフトウェア部品の順位付け方法は,ソフトウェア収集・解析・検索システムSPARS として実装され,産業界で実用されるに至っている.さらに,同氏の率いる研究室において,CCFinder,Gemini,ICCA 等のコードクローン解析ツールを開発するとともに,その利用に関するセミナーを定期的に開催し,産業界への普及に努めてきた.以上のように,同氏の開発したプログラム解析に関する要素技術は,学術界に大きなインパクトを与えたのみならず,産業界で広く利用されるに至っており,本分野における貢献は極めて大きい.よって,日本ソフトウェア科学会は,井上克郎氏に基礎研究賞を授与することとした.出典
[1] K. Inoue, R. Yokomori, T. Yamamoto, M. Matsushita, and S. Kusumoto, "Ranking significance of software components based on use relations," IEEE Transactions on Software Engineering, 31(3), pp.213-225, 2005. [2] K. Inoue, R. Yokomori, H. Fujiwara, T. Yamamoto, M. Matsushita, and S. Kusumoto, "Component rank: relative significance rank for software component search," Proceedings of the 25th International Conference on Software Engineering, pp.14-24, 2003. [3] S. Livieri, Y. Higo, M. Matushita, and K. Inoue, "Very-large scale code clone analysis and visualization of open source programs using distributed CCFinder: D-CCFinder," Proceedings of the 29th International Conference on Software Engineering, pp.106-115, 2007. [4] A. Nishimatsu, M. Jihira, S. Kusumoto, and K. Inoue, "Call-mark slicing: an efficient and economical way of reducing slice," Proceedings of the 21st International Conference on Software Engineering, pp.422-431, 1999.