表彰等
2014年度基礎研究賞
2014年度基礎研究賞の授与について
加藤 和彦日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げられた研究者に対して基礎研究賞を授与し,その功績を称える制度を2008年度に設けました.基礎研究賞は毎年2件程度の業績を選定し,主要な貢献のあった研究者に賞状および副賞を授与するものです.第7回にあたる2014年度は,2件の研究に基礎研究賞を授与することを決定いたしました.
選定委員会の構成は以下の通りです.
加藤 和彦(理事長),田中 二郎(編集委員長),
明石 修,上田 和紀,廣津 登志夫,二木 厚吉,横尾 真
佐藤 雅彦 氏(京都大学)
授賞業績: 計算と論理の本質に関する洞察およびそれに基づく一連の計算理論の構築
授賞理由
佐藤雅彦氏は,計算と論理の本質の追求のため,数学・計算機科学だけでなく哲学的観点をも含めた理論の構築を一貫して追求し,式の理論に基づく数々の理論を構築した.1980年代のTheory of Symbolic ExpressionsおよびHyperlispにおいて木構造で表現される式に対する先駆的業績をあげ,その後,関数をもつ論理型プログラミング言語Qute,明示的代入とメタ変数の理論などを構築した.変数とは何かという問題意識を常に持ち,それはラムダ計算の新たな基礎付けとなる体系という形で近年結実している.同時に同氏は,構成主義の立場から「証明=プログラム」のパラダイムをその初期の時代から強力に牽引し,正しさが保証されたプログラム作成方法としての「構成的プログラミング」の概念を提唱し,その基礎理論の構築を行なった.そして,計算機による形式的体系の汎用チェッカCALシステムをこれらの理論や上記の式の理論に基づいて設計・実装し,CALは近年の証明支援系のさきがけのひとつとなった.
同氏は,多くの学術的貢献を行ってきただけでなく,記号論理学と計算機科学研究集会(SLACS), 数理論理学研究集会(MLG)などの中心メンバ,さらに,関数論理プログラミング国際会議(FLOPS)の創設メンバの1人として,数学・論理学・計算機科学の境界領域の研究の発展に尽力した.
よって,日本ソフトウェア科学会は佐藤雅彦氏に基礎研究賞を授与することとした.
出典
[1] M. Sato: Theory of Symbolic Expressions, I, Theoretical Computer Science, Vol. 22, pp.19-55, 1983.
[2] M. Sato: Theory of Judgments and Derivations, in Progress in Discovery Science, Lecture Notes in Computer Science 2281, pp.78-122, 2002.
[3] M. Sato, R. Pollack, H. Schwichtenberg and T. Sakurai:Viewing λ-terms through maps, Indagationes Mathematicae, Vol. 24, No. 4, pp.1073-1104, 2013.
平山 勝敏 氏(神戸大学)
授賞業績: 分散制約最適化問題に関する研究
授賞理由
平山勝敏氏は,マルチエージェントシステムに関する基礎理論の中核的な問題である分散制約充足問題(Distributed Constraint Satisfaction Problem(DisCSP))および分散制約最適化問題(Distributed Constraint Optimization Problem(DCOP))に関する先駆的な研究を行なっている.特にDisCSPに関する研究では,従来の非同期型アルゴリズムに対して新しく局所同期型アルゴリズムの基本アイデアを考案し,実装が容易かつ実用的な分散制約充足アルゴリズムの基礎を築いた[1][2].なお,その基本アイデアは,DCOPにおける一連の局所探索アルゴリズムに受け継がれており,特に実用を指向したDCOPの研究に大きな影響を与えた.また,DCOPに関する研究では,木探索ベースの非同期型アルゴリズムの原型となるアルゴリズムを考案し[3],DCOPの厳密解法の研究にも大きな影響を与えた.近年は,数理計画的手法を用いた分散最適化アルゴリズム[4][5]や動的環境における最適化問題[6]の研究に取り組んでおり,人工知能およびエージェント関連の最難関国際会議(AAAI, IJCAI, AAMAS)に多数の論文が採択されている.2010年には,エージェントの研究分野に大きく貢献した論文に授与される2010 IFAAMAS Influential Paper Awardを横尾真氏,Edmund H. Durfee氏,石田亨氏,桑原和宏氏らと共同受賞し,国際的にも高く評価されている.
よって,日本ソフトウェア科学会は平山勝敏氏に基礎研究賞を授与することとした.
出典
[1] Makoto Yokoo, Katsutoshi Hirayama: Distributed Breakout Algorithm for Solving Distributed Constraint Satisfaction Problems, Proceedings of Second International Conference on Multiagent Systems (ICMAS-1996), pp.401-408, December 1996.
[2] Katsutoshi Hirayama, Makoto Yokoo: The Distributed Breakout Algorithms, Artificial Intelligence, Volume 161, Issues 1-2, pp.89--115, January 2005.
[3] Katsutoshi Hirayama, Makoto Yokoo: Distributed Partial Constraint Satisfaction Problem, Proceedings of the Third International Conference on Principles and Practice of Constraint Programming (CP-1997), pp.222-236, October 1997.
[4] Katsutoshi Hirayama: A New Approach to Distributed Task Assignment using Lagrangian Decomposition and Distributed Constraint Satisfaction, Proceedings of the 21st National Conference on Artificial Intelligence (AAAI-2006), pp.660-665, July 2006.
[5] Daisuke Hatano, Katsutoshi Hirayama: DeQED: an Efficient Divide-and-Coordinate Algorithm for DCOP, Proceedings of the 23rd International Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI-2013), pp.566-572, August 2013.
[6] Daisuke Hatano, Katsutoshi Hirayama: Dynamic SAT with Decision Change Costs: Formalization and Solutions, Proceedings of the 22nd International Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI-2011), pp.560-565, July 2011.