表彰等
2009年度基礎研究賞
日本ソフトウェア科学会は, ソフトウェア科学分野の基礎研究において 顕著な業績を挙げられた研究者に対して, 基礎研究賞を授与して, その功績を称える制度を2008年度に設けました. 基礎研究賞は毎年2件程度の業績に対して, 主要な貢献のあった研究者に対して 賞状および副賞を授与するものです.
第2回にあたる2009年度は, 2010年2月19日に開催された基礎研究賞選定委員会の審議結果を受け, 3月17日の理事会において2件の研究に対して基礎研究賞を授与することとしました.
2009年度の基礎研究賞選定委員会の構成は 以下の通りです.
湯淺 太一(理事長),本位田 真一(編集委員長),
木下 佳樹,菅原 俊治,萩谷 昌己,安村 通晃,山本 章博.
中田 育男 氏(筑波大学名誉教授)
![](/files/user/award/kiso/2009/nakata.jpg)
授賞業績 コンパイラに関する一連の研究
授賞理由
同氏が日立製作所に所属していた当時に発表されたコンパイル技術, コード最適化技術および並列化技術は,いずれも革新的であり,世界的 に見ても,当時のコンパイラ研究を牽引していたと言える.例えば,コ ンパイラにおける式のコード生成を扱った研究は,SethiとUllmanの研究 の基礎となり,ドラゴンブックの第1版でも紹介され,世界中の学生と 研究者に示唆を与えた.後の論文に,本研究と類似した先行研究 の存在が示されているが,本研究が,より有名であることも述べられて おり,その貢献度が薄れるものではない. また,LR構文解析器の自動生成系の研究は,Yaccが基にしている研究に 先んじていたことが知られている. 大学に所属を移してからは,属性文法や並列計算機用コード最 適化の研究において顕著な業績を上げる傍ら,当時ほとんど存在しなかっ たコンパイラの教科書を執筆し,その後も多くの入門書や専門書を執 筆することによって,日本のコンパイラ研究を牽引してきたことは,よ く知られている. 現在,多くの若手コンパイラ研究者に実装の共通基盤として用いられて ているCOINSインフラストラクチャは,同氏が研究代表者として行われた プロジェクトの成果であり,そのメンテナンスと拡張は,同氏の尽力に よるところが大きい.さらに,日本で開発されたプログラミング言語Rubyを 国際規格とするために,その言語仕様を厳密に記述することにも貢献している. よって,中田育男氏のコンパイラに関する一連の研究を 讃え,中田育男氏を基礎研究賞の受賞者として推薦する.
出典
Nakata, I.: On Compiling Algorithms for Arithmetic Expressions, Comm. ACM, Vol. 10, No. 8, pp. 492-494, 1967.
外山 芳人 氏(東北大学電気通信研究所)
![](/files/user/award/kiso/2009/toyama.jpg)
授賞業績: 項書き換え系における研究
授賞理由
項書き換え系(TRS)における顕著な研究業績を挙げた.1980年代に,基本的な 性質である合流性が系の直和に関して閉じていることを証明するとともに,停止 性は閉じていない,という驚くべき事実も反例により示した.これは,ご自身 の研究も含め,その後のモジュラ性(Modularity)に関する多数の研究を呼び おこす契機となった.実際,この反例およびその変形版は,モジュラ性に限ら ず多くの場面で「外山の反例」として,いまなお引用され続けている.他にも 合流性,停止性,書き換え戦略,正則保存性,定理自動証明法への応用等, TRS における重要な研究課題の多くについて優れた成果を残しており, その功績は枚挙に暇がない.2005年にはTRS分野で最も権威ある国際会議RTA (International Conference on Rewriting Techniques and Applications)に て招待講演を行うなど,現在まで,TRS 分野の中心的な研究者として研究を継 続し,当該分野に研究の発展に大きく貢献している.国内においては、NTT 研 究所,北陸先端大、東北大の研究教育職を歴任し,ソフトウェア科学会の関数 型プログラム関連の研究会,LA (言語とオートマトン)シンポジウム,TRS ミーティング等でも活躍し,その鋭い洞察力と暖かい人間性で当該分野の多く の若手研究者を育てた.現在,上述の国際会議RTA にて日本研究者による論文 採択数が常に上位を占めるのも同氏のこのような活動に負うところが大きい. よって,外山芳人氏の項書き換え系(TRS)に関する研究業績を讃え,外山芳人 氏を基礎研究賞の受賞者として推薦する.
出典
Toyama, Y.: On the Church-Rosser property for the direct sum of term rewriting systems, Journal of the Association for Computer Machinery, Vol. 34, No. 1, pp. 128-143, 1987.
Toyama, Y.: Counterexamples to termination for the direct sum of term rewriting systems, Information Processing Letters, Vol. 25, pp. 141-143, 1987.