表彰等
2018年度フェロー
日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.
フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第8回の選定にあたる今年度は,7月3日に開催されたフェロー選定委員会の審議結果を受け,7月30日の役員審議において2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.
なお,今回のフェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
丸山 宏(委員長),大沢 英一,大堀 淳,玉井哲雄, 本位田真一
柴山悦哉, 千葉滋, 萩谷 昌己,増原英彦
フェロー受賞者
高田 広章 氏
小野寺 民也 氏
略歴・授賞理由
高田 広章 氏
略歴
1963年生.1986年東京大学理学部情報科学科卒業.1988年同大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了.1989年同大学理学部情報科学科教務職員.1993年同助手.1996年博士(理学).1997年豊橋技術科学大学工学部情報工学系講師.2001年同助教授.2003年名古屋大学大学院情報科学研究科情報システム学専攻教授.2006年より同研究科附属組込みシステム研究センター長を兼務.2014年同大学未来社会創造機構教授.リアルタイムOS,リアルタイム性保証技術,車載組込みシステム/ネットワーク技術,組込みシステムのディペンダビリティ,ダイナミックマップ等の研究に従事.オープンソースのリアルタイムOS等を開発するTOPPERSプロジェクトを主宰.情報処理学会坂井記念特別賞,第12回産学官連携功労者表彰科学技術政策担当大臣賞等を受賞.
授賞理由
高田氏は,一貫して組込みシステムおよびソフトウェアの分野,特に,組込みシステム向けのリアルタイムOS,リアルタイム性保証技術,低消費エネルギー化技術,組込みシステムのディペンダビリティ,車載組込みシステムおよびネットワーク技術等について,研究ならびにソフトウェア開発を行ってきた.初期には,マルチプロセッサ向けのリアルタイムOSのためのアルゴリズムと実現技術に関して研究を行い,独創的な研究成果をあげた.また,システムレベル設計技術,車載組込みシステムおよび車載ネットワークのリアルタイム性解析技術等の分野でも,様々な研究成果をあげている.
また,研究活動と並行して,研究成果を活用したソフトウェア開発とその産業応用にも取り組んできた.ITRON仕様の標準化に貢献した後,組込みシステム向けのオープンソースソフトウェアを開発するTOPPERSプロジェクトを立ち上げた.同氏が中心となって開発した一連のTOPPERS OSは,航空宇宙研究開発機構(JAXA)のH-IIBロケットの誘導制御コンピュータをはじめ,様々な組込みシステムに利用されている.さらに,産学連携,特に複数の企業と大学を連携させるコンソーシアム型のスキームにより,数多くのプロジェクトを実施し,研究開発成果をあげている.
以上のように高田氏は,コンピュータソフトウェア領域の学術と産学連携活動において,顕著な成果をあげてきた.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.
小野寺 民也 氏
略歴
1988年東京大学大学院理学系研究科情報科学専門課程博士課程修了(理学博士).同年日本アイ・ビー・エム(株)入社.以来,同社東京基礎研究所にて,プログラミング言語,ミドルウェア,分散システム等の研究開発に従事.最近ではとくにAI基盤ソフトウェアおよび量子計算ソフトウェアスタックに興味をもつ.現在,同研究所副所長,同社技術理事.情報処理学会第41回(平成2年後期)全国大会学術奨励賞,同平成7年度山下記念研究賞,同平成16年度論文賞,同平成16年度業績賞,各受賞.日本ソフトウェア科学会においては,企画委員(1991-1998年度),オブジェクト指向コンピューティング研究会主査(1997年度),理事(1999-2002年度),等を歴任.米国計算機学会Distinguished Scientist,情報処理学会シニア会員,日本ソフトウェア科学会会員.
授賞理由
小野寺氏は,長年にわたりソフトウェア,特にプログラミング言語の設計と実装の分野において研究を重ね,顕著な業績をあげてきた.オブジェクト指向の揺籃期においては,Cを拡張した新言語COBの設計と実装を牽引し,当時最先端の自動メモリ管理を装備した高効率な処理系の作成に成功した.その後,Javaが台頭すると,ランタイムシステムの高速化の研究に注力し,特に同期機構の実装において画期的な高速化手法を複数考案し,著名国際会議で発表するとともに,IBM社の提供するすべての商用Java処理系において採用されるに至った.2000年代半ばには,動的スクリプト言語を最適化するプロジェクトを立ち上げ,PHP言語を対象に,動的コンパイラの設計実装,ランタイムの高速化,ベンチマークの作成とそれによる評価,言語仕様の明確化等々においていくつかの重要な成果を得,著名国際会議で発表している.このように,常に実用システムにおいて先進的研究を実践する小野寺氏の活動は国際的にも高く評価され,米国計算機学会のDistinguished Scientistに選出されている.この間,本学会においては,企画委員(1991-1998年度),オブジェクト指向コンピューティング研究会主査(1997年度),理事(1999-2002年度)を歴任するとともに,SPA'98プログラム委員長,SPA2002とSPA2003において運営委員,ISOTAS'96,WOOC'97,SPA'99,SPA2000においてプログラム委員を務めるなど,本学会の発展にも尽力している.プログラミング論研究会が主催するPPLサマースクールでも2016年に「商用Java処理系の研究開発」に関する講師の一人を務めている.
以上のように,プログラミング言語における小野寺氏の功績は顕著であり、本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.