表彰等

2010年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,これまでの学会活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.
功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第4回の選定にあたる今年度は,8月19日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け,9月の理事会において2名の会員に功労賞を,2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.
なお,功労賞・フェロー選定委員会の構成は以下の通りです.

平田 圭二(委員長),片山 卓也,佐藤 周行,柴山 悦哉,土居 範久,廣津 登志夫,本位田 真一,村田 真,湯淺 太一,米澤 明憲


フェロー受賞者
大堀 淳 氏
萩谷 昌己 氏
 

略歴・授賞理由

大堀 淳 氏

略歴

1981年東京大学文学部哲学科卒業.同年沖電気工業株式会社入社.1984年会社派遣留学生としてペンシルバニア大学計算機科学科大学院入 学.1989年同大学博士課程修了,Ph.D.(Computer and Information Science).同年英国王立協会特別研究員(グラスゴー大学).1990年沖電気工業株式会社関西総合研究所特別研究室長.1993年京都大学数理解 析研究所助教授.2000年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授.2005年東北大学電気通信研究所教授.

The Computer Journalの編集委員(1993-2008),Information Systemsの編者(1993-2002),HOSCのアドバイザ(2002-現在)などを務め,またSIGMOD,VLDB, POPL,ICFP,OOPSLA,ECOOPを含むデータベース,プログラミング言語,オブジェクト指向計算の各分野の主要な国際会議のプログラム委員等を歴任した.

授賞理由

大堀淳氏は,型理論により厳密に基礎づけられた形で,プログラミング言語の表現力の強化および言語処理系に関する研究を一貫して行ってきた.主要な 研究業績としては,(1) ML流の多相型を拡張し,データベースのデータモデルとプログラミング言語の型体系を統合する先駆的な研究を行い,さらに関係データベースの型推論体系を 構築することで,その後のデータベース言語の研究に大きな影響を与えたこと,(2) 型理論に基づく多相レコードから配列へのコンパイル方式を提案し,理論的に厳密かつ効率も良いコンパイル方式の可能性を示したことを嚆矢に,型主導コンパ イルと呼ばれる研究分野を開拓する役割を担ってきたことをあげることができる.

さらに,単に基礎理論の研究だけではなく,その研究成果を実用的なプログラミング言語の研究に活かし,C言語やデータベースとの相互運用性などを実 現する新しいML系プログラミング言語SML#の開発も推進している.そして,実用的言語処理系の開発過程で新たな課題を見いだし,新しい関数融合方式な どの実用化技術から,機械語コードにCurry-Howardの意味で対応する証明体系などの基礎研究まで,幅広い分野でレベルの高い研究を一貫性のある 形で展開している.

このように,大堀淳氏はプログラミング言語およびデータベースの基礎理論から新しい実用プログラミング言語開発にいたる広範な研究分野において,理 論と実践のシナジーを体現し,新しい研究分野を開拓するなど顕著な貢献をあげた.よって日本ソフトウェア科学会は同氏の業績を讃え,フェローの称号を授与 する.

萩谷 昌己 氏


略歴

1982年東京大学理学部情報科学科修士課程修了,同年京都大学数理解析研究所助手.1988年理学博士,同年京都大学数理解析研究所助教 授.1992年東京大学理学部助教授,1993年東京大学大学院理学系研究科助教授,1995年東京大学大学院理学系研究科教授.2001年4月より東京 大学大学院情報理工学系研究科教授,2010年4月より情報理工学系研究科研究科長を務め,現在に至る.

専門の研究領域は,演繹的推論の計算機上への実装,最近では生命情報に関連した研究分野(特に分子計算)である.著書に『ソフトウェア科学のための 論理学』(岩波書店,1994),『ソフトウェア考現学――基礎概念への最新おもしろガイド』(CQ出版社,1985),共著書に『論理と計算のしく み』(岩波書店,2007)などがある.

授賞理由

萩谷昌己氏は,記号処理,関数型,論理型,オブジェクト指向など様々なプログラミング言語の処理系を開発するとともに,意味論,型理論,検証系などの基礎理論に関する研究を幅広く推進してきた.

東京大学の学生時代は佐藤雅彦氏(現京都大学教授)とともにHyperlispの実装を進め,京都大学の助手時代は湯淺太一氏(同)とともに,Common Lispの仕様に完全準拠した処理系を世界に先駆けて開発した.この処理系Kyoto Common Lispは広く世界中に普及し,我が国におけるフリーソフトウェアの先駆けとなった.またGMWウィンドウシステムの開発にも加わり,現在のJavaに匹敵する並行オブジェクト指向言語であるG言語の設計を担当した.

基礎理論の分野では,型理論,高階単一化,部分評価,抽象解釈,バイトコード検証,モデル検査等において数多くの業績をあげている.その一方で,文書作成とプログラミングを融合したパラダイムであるProving-as-Editingを提唱するなど,ソフトウェア科学の様々な領域において研究成果 をあげている.

近年は計算機ソフトウェアの範囲を越えて,自然システム,特に分子システムや細胞システムを「プログラム」することに意欲を燃やしており,DNA分子を用いて汎用的なプログラム可能な分子システムを構築することを目標に研究を進めている.

このように萩谷昌己氏は,理論的にも実践的にもソフトウェア科学および関連する分野において,他に類をみない独創的な研究を進め画期的な成果をあげてきた.よって日本ソフトウェア科学会は同氏の業績を讃え,フェローの称号を授与する.