表彰等
2008年度フェロー
功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第3回の選定にあたる今 年度は,8月12日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け, 9月の理事会において2名の会員に功労賞を,3名の会員にフェローの称号 を授与することとしました. なお,功労賞・フェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
大沢 英一(委員長),上田 和紀,大野 豊,片山 卓也,佐藤 周行, 近山 隆,土居 範久,中田 育男,本位田 真一,村田 真,湯淺 太一フェロー受賞者
田中譲 氏
二木厚吉 氏
米崎直樹 氏
略歴・授賞理由
田中譲 氏
略歴
1972年京都大学工学部電気工学科卒.1974年同大学工学研究科電子工学 専攻修士課程修了.同年北海道大学工学部電気工学科助手.同講師.助教授を経て, 1990年同教授.1996年同大学知識メディアラボラトリ(VBL)長.2004年に機構改革により 同大学院情報科学研究科教授に配置換え.この間,1985年~1986年IBMワトソン研究所 客員研究員.1998年~2000年京都大学情報学研究科社会情報学専攻併任教授.2004年より 国立情報学研究所客員教授.工学博士.並列処理アーキテクチャ,データベース理論, データベースマシン,ビデオ検索,文書画像全文検索,知識メディア,知識連携などの 基盤技術と応用の研究に従事.日本ソフトウェア科学会,情報処理学会,日本人工知能 学会等各会員.Meme Media and Meme Market Architectures (IEEE Press & John Wiley, 2003)などの著書あり.
授賞理由
田中譲氏は,1970年代後半には,関係データベースの論理設計理論とデータベースマシンの 研究で国際的に評価され,1980年代の第5世代計算機開発プロジェクトでは,計画時から 前半まで,知識ベースマシンのチーフ・アドバイザーを務めた.1985年後半から1年間IBM ワトソン研究所客員研究員に招聘され,ジェファーソニアンの思想に影響を受け,帰国直後 から知識メディアの研究を開始した.1989年に,2次元表現知識メディアIntelligentPad を,1995年に3次元表現への拡張であるIntelligentBoxを発表した.これらは部品化 メディア・アーキテクチャに基づくミドルウェア技術として国内外のソフトウェア産業界に 影響を与え,1993年にはコンソーシアムが設立され,1995年には米国CIL(OpenDocの 研究開発組織)との連携が締結された.
世界中の人々が知識を知識メディアに載せて出版する ことにより,社会が共有する知識の再編集・再流通を容易にし高度な再利用を促進し, 共有知識の進化を加速するという構想は,ミーム(文化遺伝子)の概念に基づくメディア 技術としてミーム学にも影響を及ぼした.その後,ウェブ技術と知識メディア技術の融合が 進められ,ウェブ上知識のアドホック知識連携技術の提案へと繋がった.これらの成果は, 欧州連合の第6期フレームワーク統合プロジェクトACGT (Advancing Clinico-Genomic Trials on Cancer)への参加招請,欧米研究者による2008年の第1回知識連携国際 ワークショップ開催へと繋がっている.
同氏の研究は先駆的ビジョンと独創的 アーキテクチャを特徴とし,産業界に大きな影響を与えてきた.よって,日本ソフトウェア 科学会は田中譲氏の功績を称え,フェローの称号を授与する.
二木 厚吉氏
略歴
1970年東北大学工学部電気工学科卒.1975年同大学大学院工学研究科 博士課程修了,工学博士.同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所研究員. 1983~84年スタンフォード研究所(SRI International)客員研究員.1985年電子技術 総合研究所ソフトウェア部言語処理研究室長.1988年同所情報アーキテクチャ部言語 システム研究室長.1992年同所首席研究官.1993年北陸先端科学技術大学院大学情報科学 研究科教授.2001-03年同大学情報科学研究科研究科長.2007年同大学学長補佐, 現在に至る.ACM TOSEM編集委員(1996-2001), 第20回ソフトウェア工学国際会議プログラム委員長などを務め, 現在JHOSC, JOT, JAL, IJSIのアドバイザ・編集委員,IFIP WG1.3メンバー, (社)電子情報技術産業協会ソフトウェアエンジニアリング技術分科会委員長などを務める.
授賞理由
二木厚吉氏は,システムの数理的開発手法である形式手法の中核をなす形式仕様言語の研究を一貫して 進め,HISP,OBJ,CafeOBJなどの先駆的な代数仕様言語を設計・開発し,国際的に高く 評価されている.1970年代後半に電子技術総合研究所で行われたHISP言語から始め, 1983~84年にスタンフォード研究所で二木氏を含む4人により行われたOBJ2言語の設計・ 開発は,代数仕様言語とその関連分野のその後の発展を決定付けたと評価されて いる.1996~98年には,企業,大学,海外研究グループからなる国際研究プロジェクトを 組織しCafeOBJ言語システムの設計・開発を主宰した.CafeOBJ言語は,動的システムの 振舞仕様と静的システムの仕様が統一的に記述できるなどの斬新な特徴を持つ最先端の 形式仕様言語であり,国際的に極めて高く評価されている.1999年以降は,CafeOBJ 言語システムを改良しつつ,重要な応用分野への適用を進め,証明譜を用いた簡約による 対話型検証法など,形式手法の新しい可能性を切り開く研究を展開している.
このように, 今後の安心な電子社会の基盤技術である形式的仕様記述言語に関する二木厚吉氏の業績を 称え,日本ソフトウェア科学会は同氏にフェローの称号を授与する.
米崎 直樹氏
略歴
1972年東京工業大学工学部電気工学科卒業,1977年東京工業大学理工学研究科電子物理 工学専攻博士課程修了,工学博士.同年東京工業大学工学部情報工学科助手,1983年 同助教授,1991年同教授,同年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授,1994年 東京工業大学情報理工学研究科計算工学専攻教授.この間,データベース,アルゴリズム, ソフトウェア検証,セキュリティ検証など主に形式手法の研究に従事.情報処理学会, 電子情報通信学会,人工知能学会,EATCS各会員,日本学術会議連携会員(情報学), ソフトウェア工学ハンドブック(オーム社),計算論入門(日本評論社)などの著書がある.
授賞理由
米崎直樹氏は,パターン情報処理,データベースの研究を経て,その後一貫して, 形式論理とそのソフトウェア工学への応用を研究し多くの業績をあげると同時に,1980年代 よりソフトウェア検証や情報モデリング関係の多くの国際会議の組織運営に関与し活躍して きた.仕様記述言語TELL/NSLの開発や,ビジネスプロセスモデルTAPの開発などのほか, 非標準論理の証明理論からその実際的ソフトウェア工学への適用に関しては,草分的存在と して国際的に活躍してきた.現在もセキュリティやバイオインフォマティクス分野への 形式手法の適用の研究を活発に展開している.米崎氏の研究は,理論的裏付けをもった 実際的手法を開発しようとするものであり,理論と実際が遊離していると指摘される ソフトウェアの研究分野で,極めて重要な意味を持つものである.
また,学会活動における 貢献も大きく,本学会においても,1993年から96年までと,2000年から2004年までの %2度4期にわたって理事を務めると同時に,会誌コンピュータソフトウェアの編集委員長を 2度4期にわたって理事を務めると同時に,学会誌『コンピュータソフトウェア』の編集委員長を 務めるなど,本学会の発展に大いに尽くした.よって,日本ソフトウェア科学会は, 米崎直樹氏の功績を称え,フェローの称号を授与する.